ミズオノオト - Cahier de Mizuho -

2002年に渡仏し7年後にフランスから日本へ逆留学。フランスに行かなければ鍼灸師にはならなかった日本人のブログ。

ゴーヤ栽培が楽しい

今年からベランダでゴーヤを育てている。まさか自分がベランダ栽培でゴーヤをやる日が来るとは思っていなかった。というのも、私はマンションの高い階に住んでいるのでかなり風が強い。過去には強風で干していた洗濯物が飛んでいってしまったことが何度もあったし、強風の日に窓際に置いてあったキャンプ用のコップが飛んでいったこともある。ここでゴーヤを育てるのは強風で難しいと思っていた。

 

ところが、一昨年(2019)ぐらいからうちに緑の同居人がやってきて、去年はだいぶ彼等の占有率が増えた。ベランダに出している鉢も風が強いと倒れるので、中に入れたり出したりして世話している。この場所で植物を育てることに慣れてきた。

 

去年の5月に緑の同居人たちについてこのブログでも書いている。

acupuncteur.hatenablog.com

 

元来が植物好きなので、始めると楽しくてたまらない。先日は枇杷、ガジュマル、ベビーサンローズ、サボテンを大きめの鉢に植え替えた。もっと植え替えしたいものもあるが、相当大きいものもあるので考えながらやらないといけない。

 

緑の同居人達がいるのが当たり前になってきて、収穫できるものを育てたいと思うのは自然の流れ。でもゴーヤを育て始めたのは両親の影響が大きい。両親は数年前から寒い地方に住んでいるが、一昨年ゴーヤを育ててみたら、寒さのせいであまり収穫ができなかったそうだ。両親が関東に住んでいた頃に家の庭でゴーヤを育てた時は豊作だった。過去の栄光を知っているから余計に悔しいらしい。「ゴーヤ、ゴーヤ」と聞かされていたので、ゴーヤを育てたいという思いが私に刷り込まれてしまったに違いない。気づいたら銀座の沖縄アンテナショップでゴーヤの苗を買っていた。

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買ったはいいけど、ベランダでゴーヤを育てる環境を作るのは思っていた以上に大変であった。

ウチがかなり「風通しが良い」のは分かっているので、安心できる環境作りから始めた。プランターを置いて支柱を立てただけだとウチの場合は強風でめちゃくちゃになってしまう。マンションの高い階でもゴーヤ栽培をしている方々の情報を参考にした。ステンレス物干し竿を縦に固定して、そこに横の支柱を通してゴーヤ用の網をかけた。

 

でも、一番大変な作業はステンレス物干し竿の設置ではない。培養土などを運ぶ力仕事が大変だった。ゴーヤ用のプランターを買いに行くと、自分が思っていたよりも大きなプランターの方が良いとお店の人に言われた。ゴーヤはプランターが小さいとすぐに枯れてしまうそうだ。

せっかく育てるのだから成功させたい。緑のカーテンというよりもゴーヤの収穫を目的としているので、大きなプランターを買った。大きなプランターを使うということは、そこに入れる土も必要だということ。ホームセンターと家を3往復して、プランター、鉢底石、培養土(20リットル2袋)などを運んだ。こんな時は車があれば良かったと思う。でも仕方がない。ゴーヤ栽培には全て必要なものだ。覚悟を決めて運ぶ。ゴーヤ栽培のプロセスで一番辛かったのは培養土20リットルを2回に分けて運んだことだと思う。土嚢を運んでいるようなものだから当たり前だ。

 

おかげで設置作業は順調に進み、ゴーヤも順調に育っている。毎朝起きて最初にゴーヤに水をやる。帰宅してからもゴーヤを見に行く。成長を見ていると楽しい。ツルが絡む場所を誘引したり、摘心したり、肥料をやったり。二つ買った苗のうちの一つが成長が早く、最初のゴーヤがあと少しで食べれるまでに成長しそうだ。

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患者さんにゴーヤを育てていることを話したら「植物を育てるのは脳にとってもいいんですよね」という話をしてくれた。植物は変化するので、それを見ているだけでも刺激を受けるし「精神にもいいんですよ」とのこと。ここのところ、季節の変わり目、長引くコロナ禍で疲労が抜けないと訴える人が多いけど、私が元気なのは植物のおかげもあるかもしれない。毎日ゴーヤの成長を目にしていると楽しくてたまらない。

 

調べて見たら、園芸療法についてインターネットにも情報が出ていた。(養命酒のサイトを下に貼っておく。)園芸療法は意識していなかったけど、植物を育てる楽しみは毎日感じている。五感をフルに刺激されるし、季節も目に見える。新芽が出てきたり、冬は枯れ木のようだったのが、春になると芽吹く。アブラムシが出ても、それに対処するのが楽しい。昔は虫が出るのは嫌だと思っていたのに、対処法が分かれば怖くない。出る前に対策もできると分かって余計に楽しくなった。小さいサボテンは下に置いていたら、カーテンが触れてゴロゴロ転がったりしていた。丸いので余計に転がる。転がっても転がっても元気だ。大きい鉢に植え替えたので、たぶんもう転がらないことを願う。

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植物を見ていると人間は負けてしまうのではないかと思うぐらいに勢いがいい。緑の同居人達から元気をもらいながら生きているなと思う。もうすぐゴーヤの第一号が収穫できそうだけど、この夏はベランダ産ゴーヤが沢山できるといいなぁ。

 

植物を育てることで元気になれる「園芸療法」とは?|元気通信|養命酒製造株式会社

マルシェが恋しい

フランスにいた頃は当たり前だったけど、フランスのマルシェって実は利用者にも売り手にも究極に便利なシステムだったなぁと思う。

 

先日「食べチョク」を利用して無農薬の熊本の天草産甘夏を注文した。生産者から直接美味しいものが届くのは素晴らしいし、美味しい甘夏で嬉しかった。でも、実際に品物を見て買いたいのが本音。仕事をしていると朝から夜まで家にいないので、宅配便の受け取り時間に気を使う。冷蔵便だと更に難度が上がる。私にとっては届けてもらうよりも、自分で買いに行ってしまう方がストレスフリー。

 

最近、自然栽培や無農薬の野菜を買いたいと思うことが多い。「食べチョク」は日本全国の産地から地元の野菜を送ってもらえるのでとても有難い存在ではある。また注文したいけど選ぶのも大変だなと見ていた時、そう言えばフランスのマルシェってすごかったんだなと思った。私が住んでいたリヨンのアパルトマンのすぐ近くにマルシェの立つ広場があって、生産者の方々が直接売りに来ていた。ビオ野菜専門で売っているお店もあったし、そうではない安売りのお店もあった。自然派ワインを売りに来ていたり、季節の野菜も買えた。曜日によってはノルマンディーのチーズ屋さんが来ていた。野菜、果物、肉類、魚、チーズ、卵、パン、花、オリーブ、鶏の丸焼き、蜂蜜、いろんなお店が来ていた。しかもマルシェの品物は新鮮。

 

フランスはマルシェの場所が決まっている。広場や大通り、空間があると、そこにマルシェが来る。曜日も決まっているから毎週この曜日にあのお店が来るというのが分かる。当時は当たり前だったけど、日本に帰ってきてから考えると相当に有難いシステム。朝早くから開いていてお昼までやっている所が多く、お昼過ぎると撤収。市のゴミ清掃車もやってきて一斉に綺麗にする。移動式なのでいつもそこにいる訳ではない。マルシェの後に清掃車まで来るぐらいだから行政のバックアップもあるんだろう。そこまで制度が確立されているのは羨ましい。

 

マルシェだと自分の目で見て買えるだけではなく、必要な分だけ買えるのも便利。日本では無農薬や自然栽培の野菜を買おうとすると普通のスーパーでは取り扱いがない。ネットで取り寄せる方が早い。それを考えると生産者の方から売りに来てくれるマルシェってすごいこと。生産者側にとってもマルシェには買い手が沢山やって来るので合理的。食べチョクはいいけど、配送準備をしないでマルシェのように直に売りに来れる場所が存在していればもっといいのにな。流通の意味でも近隣の農家さんがやって来る場所があるなら私は買いに行きたい。

 

さすが農業国フランスだと離れてみて有難さを噛みしめる。青空市場だとか、近くにあればいいのになぁ。

 

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Radis 大根類 パリのマルシェ 2018年11月

 

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Poissons 魚屋さん パリのマルシェ 2018年11月


 

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八百屋さん パリのマルシェ 2018年11月

 

本当はリヨンの馴染みのマルシェの写真を載せたかったのに、昔の写真が膨大すぎて欲しい写真に行き着かなかった。上の写真はパリのマルシェの写真です。

 

そう言えばFacebookに一枚写真をアップしていたなと思って、自分のアップしたものをダウンロードしました。下の写真はリヨンのマルシェです。

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花屋さん リヨンのマルシェ 2015年11月



 

 

 

 

映画『痛くない死に方』

行こうと思った映画館の上映中作品に『痛くない死に方』があった。これを選んで良かった。おもしろい。映画の内容も作り方も面白いけど、誰もが避けられない死の周辺について、死に方について。大きなスクリーンで観られて良かった。

 

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かなり昔、誰かが「死ぬ準備を始めるのに早すぎることはない」というような事を言っていたけど、私もそう思う。この映画を見て、長尾和宏さんの原作を読みたくなった。

 

映画の前半は観ていて辛いものだったけど、現実はあれ以上に壮絶なものも多いし、長期化することもある。私の祖父が亡くなる前に横に一緒に寝て介護をしたことがある。あの体験は私にとって忘れられないものだった。人間には恥辱の心があって、お世話をされるのは家族ではない方がいいのかもとその時に思った。自分が祖父の立場になったらと想像した。同時に、祖父が入院する度に認知症が進むのが目に見えて分かった。できるだけ入院しない方が良いというのは本当だ。祖父は医師だったけど、死ぬときは誰もが平等。

 

病院ではなく在宅で看取られる選択をして、お世話をする側の負担の大きさは想像以上のもの。鍼灸師として働いていて、病気のご本人以上にお世話をしている側の介護疲れを何人も見てきた。在宅の方がいいというのは分かるけど、現実は映画以上に大変なものだし、汚いことも沢山ある。在宅医療は映画のように綺麗ではない。

 

後半の宇崎竜童さんの演じる役柄では、医師と本人、家族の関係性が魅力的に描かれていた。在宅医療であんな風に亡くなるのは理想だと思う。家族の希望、本人の希望、在宅医療の難しさ、病院。でも、自分は痛くない死に方をするのだろうか?

 

映画の中には印象的な言葉も沢山あって、それが原作を読みたくなった理由の1つだった。「生きることは食べること。」と言っていたけど、美味しいと思う幸福感、咀嚼、消化、栄養、食べることで消化されて便も出る。食べることは生きること。生きることは食べること。

「臓器という断片を見るのか、患者の物語を見るのか。」在宅医療だけではなく、医療全体に言える事。

 

 

患者目線の川柳も面白い。沢山出てくるけど下のはそのうちの1つ。皮肉が効いてる。

「丸ハゲの 主治医勧める 抗がん剤

 

先日のシアターコモンズ'21 もテーマは 「Bodys in Incubation 孵化/潜伏する身体」だった。身体、健康については元々人気のあるテーマだけど、死に方、生の終わりについても体力があって元気なうちに考えたい。地震の備えをするなら、死の備えも慌てないようにしたいなと思う。孤独死の備えや家族がいない一人で亡くなる人の死の周辺についてももっとピックアップされて欲しいと思う。

 

監督:高橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
キャスト:柄本佑/坂井真紀/余 貴美子/大谷直子/宇崎竜童/奥田瑛二
制作国:日本
配給会社:渋谷プロダクション

 

itakunaishinikata.com

 

そういえば、在宅医療の日本在宅医学会に参加したこともあったんだったと思い出した。学会でALSの当事者の方々が自らの体験を語っていた時は、会場からすすり泣きの声が聞こえてきたし、ある在宅医の方はハグとユーモアのの効用の話をしていた。その時のホール会場で初対面の隣の人とハグしたな〜。2014年の学会だから平気でハグしていたけど、今は人との触れ合いも減った。そんなボディーコミュニケーションができる日が早く来ますように。

 

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シアターコモンズ’21 百瀬文「鍼を打つ」で鍼を打った

アート Art の意味は「芸術」。

でも、 Art には「技術、技(わざ)、スタイル、技術を要する仕事」という意味もある。鍼術 - Acupuncture - もアートなのでアール。 

 

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出演した鍼師とスタッフの皆さん ©Theater Commons Tokyo 21 / Photo: Shun Sato

シアターコモンズ'21 百瀬文「鍼を打つ」に鍼師として出演するというレアな経験を味わった。いつものように鍼を打つわけではなく、制限のある中で鍼施術。でも、その制限のおかげで我々鍼師が得たものは大きかった。公演が無事幕を閉じ、この経験は今後の臨床にも活かせると確信している。今の感覚を忘れないように、私の頭に浮かんだものをランダムに書いておこうと思う。

 

theatercommons.tokyo

 

 

鍼灸治療を行うときは、患者さんから主訴を聞き、主訴以外の情報も聞く。たわいもない会話の一言が治療のヒントになる事も多いので、治療中の会話も不可欠。話の中から不具合が起こる原因を発見したり、話す事で安心する事もできる。治療中は黙っていたいという人もいるけど、話したい人も多く、時に、泣く人もいる。患者さんとの会話は鍼灸治療の当たり前。

 

今回のパフォーマンスではそんな会話もできない。 百瀬文「鍼を打つ」では、術者とのコミュニケーションは「接触」だけ。初日は衝撃的だった。

 

パフォーマンスの仕組みは「特別な問診票」にチェックをつけてもらい、我々はそれを解釈して鍼を打つ。鍼を打つ間、患者さんのイヤホンからは問診票の文章が流れている。問診票と言っても通常の鍼灸院で用意している類ではない。心の内側に引っかかるようなプライベートな内容も含まれているので、問診票の内容が興味深い。人によっては、その言葉の威力で心を揺さぶられることもあったと思う。問診票には哲学的な問いもあって、百瀬文さんのセンスの良さを感じた。あのナレーションの言葉を聞きながら鍼を打たれる事を想像。鍼が初めての人にとってはなかなかの幽体離脱体験なのでは?

 

イヤホンから聞こえてくる言葉はプライベートな領域に踏み込んでくる。そんな言葉を聞かされながら鍼を受ける訳だ。我々が言葉を発するのは、ベッドに仰向けになるように促すこと、お腹を出しますと知らせること、鍼の後に休憩を促すこと、それぐらいだ。 鍼師がすることは、手で触る接触と鍼を使った皮膚への侵襲。目を見つめ合う事も少ない。体験者は言葉もなく体を触られ、鍼を刺される感覚とイヤホンから聞こえる言葉に対峙する。

 

気づき

言葉というコミュニケーションツールの使用を禁じられて鍼を打つのは、私のように治療中に患者さんとよく話す人にとっては興味深いものだった。いつもよりも鍼の感触に集中せざるを得ないし、自分自身の感覚も研ぎ澄まされる。会話がないので、患者さんの身体が示すものを感じながら体験者の身体を触る。

 

  • 無言のパフォーマンスで鍼を打つことのみに集中できることの贅沢さ

 学生時代でも、言葉も発せずに鍼を黙々と打ち続けるという授業はない。なんの言葉も発せずに鍼を打つ体験をして、鍼師が感じることは全ての意味で未体験のものだった。この体験からは言語化が難しい多くのことを学んだ。

  • 皮膚を触られる安心感

「目を見て会釈をする」時、目を合わせようとしない方がいた。でも、終わる時には私の目を見つめている。触れられる事でその人のプライベート領域に少しずつ入っていき、触れる事で自分が受け入れられている事を感じた。

  • 言葉によって脳が思い込まされている可能性

このパフォーマンスを体験して、言葉によって思い込まされていることも多いという発見があった。患者さん側でも施術を行う側でも、言葉にすることで脳が思いこみをしてしまっているかもしれない。無言で純粋に鍼を刺される事を体験したからこそ、もっと会話を治療に利用できる可能性を感じた。会話によって脳が言葉で占領されすぎる事も純粋な感覚を奪う。

 

皮膚感覚が脳に与える影響

鍼の侵襲だけでなく、体を触られることも刺激であり、皮膚の触覚刺激は脳に影響を与える。言葉なしで鍼を刺されても患者さんが悲鳴を上げないのは皮膚を触られることによって得る情報が多いから。

 

皮膚は人体最大の臓器と言われている。実際、皮膚が担っている臓器の役割は大きい。でも、汗をかいたりといった臓器としての役割以外に、皮膚が脳のような役割をしていることも分かっている。

 

皮膚科学研究者の傳田光洋さんが皮膚は第三の脳(消化器が第二の脳)と言っている。「触覚機能を超えて、皮膚感覚と人間の心は繋がっている」という。実際、体を触られる方が触れられないよりも親密感を覚えるという実験はよく目にする。皮膚を触られる精神的安心感は鍼治療の効果を高める。パフォーマンスの中で体をただ触れている演出があって、その触れられているのが心地よいという感想が多かった。

 

そういえば、知り合いの俳優さんが「撮影前には皮膚を触ってもらった方が肌艶がよくなるから、オイルマッサージに行く」と話していた。マッサージが気持ちがいいから行くのではなく、「皮膚を触ってもらうために行く」と言っていたのが興味深い。その方は自分の感覚で肌が変わるのが分かっていたのだと思う。

 

アート - Art - という言葉

鍼灸という医療行為をアートの題材にするという視点は新しいと思った。でも、待てよ。Artは芸術という意味合いだけではなく、技術という意味もある。わたし達は鍼という道具を使って鍼術を患者さんに施す。鍼灸も体に施術を施すアートの1つだ。私たち鍼師も体という劇場の体感アートを生業にするアーティストだと思う。感性を豊かにして、感じとる力を養う必要がある。百瀬さんのパフォーマンスで演じた事で、鍼灸施術というものを考えた。人間の触覚感覚、認知感覚、言葉の響き、治療…。うーん、おぼろげだけど何かが見えてきた。

 

このパフォーマンスを通して、私の思考も過去と未来を行き来した。アートについて。フランスに住んでいた頃、コンサートや美術館、夏の屋外映画上映会、芸術に触れる機会が多かったし、それだけの生活の余裕と社会全体の空気があった。国が芸術に対して支援する金額も多いので、日本では高額なコンサートもフランスではチケット代が安い。芸術という意味でのアートが生活に根付いていた。

 

「人生は短く、芸術は長い」という格言がある。医学の父ヒポクラテスの言葉。

Life is short, the art long, opportunity fleeting, experience treacherous, judgement difficult.

(人生は短く、術は長い、機会は逃げやすく、経験は当てにならず、判断は難しい)

原文の意味は医者であるヒポクラテスが 「人の一生は短いのに比して、医術は深くて極め難いものであるから、これに従事しようとする者は時間を大切にして研究に励まなければならない」というものから来ている。百瀬さんのパフォーマンスへの「出張」期間中、この言葉を思い出した。

 

フランスで修士論文を提出した時、序文はこのヒポクラテスの言葉から始めた事を思い出した。この言葉を論文に書いたことなんて何年も忘れていたのに。ハッとした。下の写真が「ヒポクラテスの誓い」のフランス語バージョン。私の修士論文の序文(お恥ずかしい)。何年も忘れていたものをこのパフォーマンスで思い出し、「ヒポクラテスの誓い」で患者との向き合い方が書かれている事も思い出した。そいうものも含めて「鍼はアート」だと思う。

 

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良い治療を行うためには、自分自身の体も良い状態に保つ必要がある。常々思っていることだけど、精神的快楽を感じることは自分自身のストレスの解放に繋がる。その手段はどんなものでもあり得る。鍼治療でスッキリしたと表情が変わる人は多いけど、私自身は芸術で心が動かされてストレスが吹き飛ぶ。心のビタミン摂取のために芸術を利用するのだ。コンサートのチケット代が医療控除適用にならないのが残念だといつも思う。

 

今回のパフォーマンスは私の心を動かすセラピーパフォーマンスだった。鍼を打って術者の方も元気になることがある。無言のパフォーマンスから得たものは予想外のものだった。素晴らしい体験をさせてもらえたことをありがたく思う。会場の選択も良かった。SHIBAURA HOUSEのあの不思議な空間は今回のパフォーマンスにぴったり。リハーサルも含めてあの異空間に6日間通い、東京にいながらにして旅にでたような気分を味わった。コロナ禍での特別な旅だった。

 

 

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心配だったこと 

公演前にちょっと気になっていた事をメモ。

  • 深刻な症状があって治療を希望する人が来たら?→この作品の趣旨はそれではないと理解する事でその不安は取り払われた。後で分かった事だが、鍼灸師側はみんなそう思っていたようだ。
  •  痛みに耐えられない人がいないか。鍼が初めての人は緊張するのではないか。→ちょっと痛そうにする人はいたが、鍼師側の方で緊張緩和のコントロールはできた。鍼が初めての方もいたと思うので、言葉はなくてもできるだけ恐怖がないようにする事はできた。刺激が強すぎると本当に気分が悪くなる可能性がある。ある程度はここに刺しますよという合図をしてから鍼を刺した。

 

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公演が行われたSHIBAURA HOUSE。この空間演出も良かった。

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関係者の方々へお礼

このような前代未聞の作品を創作してくださった百瀬文さんに心から感謝の意を表します。鍼がこういう形で取りあげられる事はありませんでした。自分がこんな風に参加できた事を心から嬉しく思います。この体験によって日常の臨床では感じられないものを体感することができました。SHIBAURA HOUSEのあの空間で体験者の方々の感覚と自分の感覚が混じり合うような浮遊の時間はマジックでした。出演できた我々はラッキーだったと思います。

 

情熱を持ってシアターコモンズのそれぞれのプログラムに1つ1つ取り組み、他のプログラムも同時開催でお忙しい中でも何度も会場に足を運んでくださったシアターコモンズ'21ディレクターの相馬千秋さん、ありがとうございます。相馬さんの存在感は大きいものでした。コロナ禍で開催するシアターコモンズの成功は相馬さんの愛情と情熱が作り上げたのだと思います。ちなみに、持ってきてくださった差し入れは、文字通り我々の力になりました。

 

毎日細心の心配りで私たちを迎えてくださった制作の山里真紀子さん、どんな時も元気に会場運営をして我々鍼師のハートを掴んでいたインターン小橋清花さん、大変お世話になりました。あっという間の5日間でした。そして音響や会場設営、スタッフのみなさま、雰囲気の良いチームだったなと思います。心から感謝します。

 

最後に、この異空間の旅のきっかけをくださった松波太郎さん、北京研修の旅も良かったですが、今回の「旅」も負けていませんでした。鍼師選出の演出家として役割も大変だったと思います。衷心感谢!

 

一緒に鍼を打った「劇団鍼師」の仲間たちに出会えた事もかけがえのない財産でした。お誘い頂いた松波さん以外は全員初対面であり、それぞれの個性、鍼の打ち方も含め、ご一緒できて良かった。あの浮かび上がった天空の隙間で6人の鍼師が同時に鍼を打つのもイレギュラーであり、不思議なシンクロナイズド一体感が生まれていた。

 

 

ここには書かない私の個人的な驚きもあって、素晴らしい体験をさせてもらったんだなとつくづく思う。この体験が私の脳や体に及ぼした影響も熟成していくのだと思う。1つの節目の出来事だった。

 

足のケア体験

鍼灸師という職業柄、人の足を見る機会が多い。色んな年代、性別の爪や足の甲、足裏を見る機会がある。足首周りや足指周辺に鍼を刺さない日はないかもしれない。顎や腰、首など離れた場所の治療のためにも足を使う。

 

爪もいろいろ。爪が肥厚したり爪の色が変わってしまっている人。爪が一つだけ黒い人。巻き爪、陥入爪。爪が割れている。足の爪がばち指のようになっている人もいる。常に綺麗にネイルを塗っている人もいる。外反母趾も多い。「巻き爪の矯正をしてもらったら割れてしまったんですよ!」と爪関連の話題を話す人もいる。中にはちゃんと医療機関に行った方が良いのでは…という人もいる。本人も分かっているけど忙しくてなかなか行く時間が無いらしい。足指は力がかかるから移動に影響する。爪の健康も大事。

 

靴下を脱いでくださいとお願いはしてないので、男性は靴下を脱がない人も多い。水虫に悩んでいる人もいるのかもしれない。でも、足の甲や指、足首周りは鍼灸ではよく使う場所。

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仏語版鍼灸書の胆経の足の部分

 

足裏も踵が綺麗な人もいれば、ひび割れが酷い人、足裏の硬くなる場所も様々。ヒールやサンダルで水膨れや豆を作って絆創膏を貼ってる人もいる。ちなみに、足裏はお灸をよくする場所。

 

足は歩き方や体の癖が出る。最近は足の筋力の弱い人が多い。運動不足の現代人は元々そういう人が多いけど、コロナで在宅勤務が増えて余計に筋力が弱っている印象。

 

先日、初めてフットケアサロンに行ってみた。ネイルサロンではなく足のケアの方。

私は足にタコや魚の目がある訳ではなかったけど、フットケアには興味がある。どういう感じなんだろうと思っていたので、思ったが吉日、休みの日に予約をした。ドイツ式フットケアサロン。私は手にネイルをしない分、たまに足の爪にネイルを塗る。甘皮をプロに処理してもらうとどんな感じなのかに興味があった。

 

行ってみた率直な感想は「すごい変化は感じない」というものだった。そもそも、自分で足のケアをしている時にサロンに行ってみようと思ったのが悪かったかもしれない。何もしないで行けばよかった(笑)。

 

私は鍼灸師になってからヒール靴を履かなくなったので、足のトラブルはあまりない。ヒールを履いていた頃は合わない靴だと水膨れになっていた。ここ数年は足の指を踏みしめて歩く事ができる靴ばかり履いているので、もうヒール生活には戻れない。足をかっこよく長く見せることより、しっかり歩ける事を重視している。5本指シューズの事を知ってからは、今でもたまに履く。指で大地を掴む感じが心地良い。足の指を使うからそ脛の筋肉も使う。体の上の方まで影響する。

 

踵のガサガサに関しては「削るよりも保湿の方が大事だ」とやってくれた方が言っていた。私もそう思うので普段から踵はケアするようにしている。鍼灸院に来ている方で踵がガサガサでヒビ割れが凄い方がいる。仕事が忙しくて睡眠時間も短い人。私がケアしてあげたいぐらいに酷い。失礼にあたるのでそんな事は絶対に言えないんだけど、ご本人も気にしていると言っていたので、そういう人こそフットケアサロンに行ってみて欲しいと思う。でも、自分で保湿ケアをするだけでも大分変わると思う。

 

踵の保湿はクリームを塗った後にラップで包んでおくのが一番効果があると医師が言っていた。昔、クラスメートにそれを教えたら効果があったらしく、喜んで報告してくれた人がいた。ラップで包むと成分が浸透するので、ただ塗るだけとは全然違う。踵のガサガサが酷い人は、クリームやオイルを塗った後のラップがオススメです。

 

フットケアと言っても、足底アーチを見てくれる所や外反母趾専門の医療機関もある。足先もそうだけど、足首や膝を悪くして歩くのに不自由したり、骨折して腰や背中まで痛める人は多い。足先を怪我してもバランスが悪くなって他の所に痛みが出る。外反母趾が酷くて背中も痛いんです、という人は多い。

 

足は移動手段なので上肢の不具合よりも体への影響が大きい。しかも体の中でも体重を支えて頑張っている部位。フットケアサロンに行かなくても、自分で足の指を回したり、足の指を動かすのも血流促進におすすめ。足先だけではなく下腿の筋力を付けると体の動かしやすさが変わる。腰痛予防にもなるし、体が安定するので生活がとても楽になります。

 

土佐文旦マーマレード

患者さんが土佐文旦をくださった。ありがとうございます。美味しそうな文旦なのでマーマレード作る気満々。柑橘類の皮の煮たものが大好きです。

 

材料

  • 文旦 1つ 皮と種
  • 砂糖 150gぐらい

 

作り方

文旦の皮を細く切って、水から沸騰させて5分ぐらい立ったらお湯を捨てる。この煮こぼし作業を3回終えたら、文旦の種を茶葉袋のようなものに入れて10分ぐらい再び煮る。お湯の量が下の写真になるぐらい。

 

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3回煮こぼして種を入れた状態

 

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種を入れて、さらに煮た状態

種からとろみ成分が出るので、種を取り出して冷めたら絞り出すとトロトロした液体が出るのでそれも鍋に戻します。

砂糖の分量がどのくらいかが問題なのですが、今回は150〜200グラムぐらいの分量です。ブラウンシュガーなので色が付いています。

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砂糖を入れて煮始めた状態

 

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弱火で15分ぐらい経った状態、出来上がり!



煮こぼして、種を入れてまた煮て、それから砂糖を入れてまた煮る。時間はちょっとかかりますが、別の作業をしながらできますし、むちゃくちゃ簡単です。しかも簡単なのにむちゃくちゃに美味しいです。最初に煮こぼしを始める時から柑橘独特の良い香りが漂っています。今回は文旦と砂糖だけで作りましたが、最後に何かアルコールを加えても香りづいてオススメです。

苦いのが好きな人、苦味が苦手な人、色々だと思うので砂糖の量は調整してください。皮の苦味を取るためにもっと色んな工程がある作り方もあります。

 

これだけで食べても美味しいですし、勿論パンやホットケーキに。炒め物や和え物に入れると、柑橘の爽やかでほろ苦い風味がよく合います。

 

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因みに、柑橘系の皮は洗剤にもよく使われていますが、煮こぼす時に出る汁は洗浄効果抜群の洗剤みたいなものです。ピカピカになるので掃除に使うと一石二鳥です。

蘭州ラーメン 牛骨薬膳拉麺

蘭州ラーメンと言えば私にとっては北京で食べたお気に入りの一品。

牛骨の出汁の出たあのスープとパクチーがなんとも絶妙な味わい。日本でも一時期ブームだったけど日本でお店で食べた事はなかった。

 


そんな時、ずっと在宅勤務だったけど久し振りに出社して蘭州ラーメンに行ったという患者さんがいた。お勧めの所を教えてくれたので行ってみた。確かにあの味。美味しい!

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北京で食べるともっと量があるし、麺が水を吸って膨れるので余計に量が増える。ここの蘭州ラーメンはそんな事ないので(私が早く食べたせいかも)食べやすい。

でもお店の中にも「すぐに食べるのがコツ」と書いてある。(下の写真)

北京で食べた時に麺が膨らむ度合いが早かったから「並」を頼んだけど、ここだったら私なら「大盛り」で良いかも。

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パクチー抜きでも作ってくれる。食べながら置いてあるお酢やニンニクや辣油を入れながら味を変えて食べる。その時の気分で自分好みの味にしてください。満足げに食べてしまいました。お店の人達も中国語。愛想は良いです。


余談ながら、蘭州ラーメンは大好きだけど、実は日本のこってりラーメンはあまり大好きではない。わざわざ「ラーメン」を食べに行きたいと思わない。ラーメンはあんまり好きじゃないと言うと「えっ!(驚愕)」という目で見る人多い。でも、「私もラーメン苦手です」と言う人も結構いる。昔勤務していた所の院長もラーメンはダメだった。嫌なフリじゃなくて、本当なんだからしょうがない。でも、チーズが乗ったピザとかカルボナーラ系のパスタは大好き。自分に正直に生きましょう!

蘭州ラーメンはスープも飲み干すぐらい好きです(笑)。Les nouilles au bœuf de Lanzhou.

 

蘭州ラーメンは大好きなのでたまに行きたいなぁ。他のメニューも食べてみたい。ムスリムも食べられるハラル印も私としては親しみが湧きます(笑)。

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