ミズオノオト - Cahier de Mizuho -

2002年に渡仏し7年後にフランスから日本へ逆留学。フランスに行かなければ鍼灸師にはならなかった日本人のブログ。

映画『痛くない死に方』

行こうと思った映画館の上映中作品に『痛くない死に方』があった。これを選んで良かった。おもしろい。映画の内容も作り方も面白いけど、誰もが避けられない死の周辺について、死に方について。大きなスクリーンで観られて良かった。

 

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かなり昔、誰かが「死ぬ準備を始めるのに早すぎることはない」というような事を言っていたけど、私もそう思う。この映画を見て、長尾和宏さんの原作を読みたくなった。

 

映画の前半は観ていて辛いものだったけど、現実はあれ以上に壮絶なものも多いし、長期化することもある。私の祖父が亡くなる前に横に一緒に寝て介護をしたことがある。あの体験は私にとって忘れられないものだった。人間には恥辱の心があって、お世話をされるのは家族ではない方がいいのかもとその時に思った。自分が祖父の立場になったらと想像した。同時に、祖父が入院する度に認知症が進むのが目に見えて分かった。できるだけ入院しない方が良いというのは本当だ。祖父は医師だったけど、死ぬときは誰もが平等。

 

病院ではなく在宅で看取られる選択をして、お世話をする側の負担の大きさは想像以上のもの。鍼灸師として働いていて、病気のご本人以上にお世話をしている側の介護疲れを何人も見てきた。在宅の方がいいというのは分かるけど、現実は映画以上に大変なものだし、汚いことも沢山ある。在宅医療は映画のように綺麗ではない。

 

後半の宇崎竜童さんの演じる役柄では、医師と本人、家族の関係性が魅力的に描かれていた。在宅医療であんな風に亡くなるのは理想だと思う。家族の希望、本人の希望、在宅医療の難しさ、病院。でも、自分は痛くない死に方をするのだろうか?

 

映画の中には印象的な言葉も沢山あって、それが原作を読みたくなった理由の1つだった。「生きることは食べること。」と言っていたけど、美味しいと思う幸福感、咀嚼、消化、栄養、食べることで消化されて便も出る。食べることは生きること。生きることは食べること。

「臓器という断片を見るのか、患者の物語を見るのか。」在宅医療だけではなく、医療全体に言える事。

 

 

患者目線の川柳も面白い。沢山出てくるけど下のはそのうちの1つ。皮肉が効いてる。

「丸ハゲの 主治医勧める 抗がん剤

 

先日のシアターコモンズ'21 もテーマは 「Bodys in Incubation 孵化/潜伏する身体」だった。身体、健康については元々人気のあるテーマだけど、死に方、生の終わりについても体力があって元気なうちに考えたい。地震の備えをするなら、死の備えも慌てないようにしたいなと思う。孤独死の備えや家族がいない一人で亡くなる人の死の周辺についてももっとピックアップされて欲しいと思う。

 

監督:高橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
キャスト:柄本佑/坂井真紀/余 貴美子/大谷直子/宇崎竜童/奥田瑛二
制作国:日本
配給会社:渋谷プロダクション

 

itakunaishinikata.com

 

そういえば、在宅医療の日本在宅医学会に参加したこともあったんだったと思い出した。学会でALSの当事者の方々が自らの体験を語っていた時は、会場からすすり泣きの声が聞こえてきたし、ある在宅医の方はハグとユーモアのの効用の話をしていた。その時のホール会場で初対面の隣の人とハグしたな〜。2014年の学会だから平気でハグしていたけど、今は人との触れ合いも減った。そんなボディーコミュニケーションができる日が早く来ますように。

 

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