ミズオノオト - Cahier de Mizuho -

2002年に渡仏し7年後にフランスから日本へ逆留学。フランスに行かなければ鍼灸師にはならなかった日本人のブログ。

認知症ケア「ユマニチュード」Humanitude

全日本鍼灸学会2019最終日「シンポジウム5」のテーマが認知症だった。フランス生まれの認知症ケア「ユマニチュード」についてもお話されていたが、私は三年前の2016年7月に発案者イヴ・ジネストさんご本人のお話を聞いた。当時、フランス関係の団体に入会していて、そこでジネストさんの講演会があるというので恵比寿の日仏会館まで行った。「ユマニチュード」はNHKクローズアップ現代などでも取り上げられていたし、私も職場のブログでそれについて書いた。ジネストさんにお会いした当時のフレッシュな記憶と、それにちょっと文を付け加えてアップ。

 

 

2016年7月4日(月)にフランス生まれの認知症ケア「ユマニチュード」の講演会に行った。鍼灸師としても参考になることばかりで貴重な講演を聞くことができた。

 

NHKの「あさイチ」や 「クローズアップ現代」でも取り上げられていたので、ご存知の方も多いかもしれない。Humanitudeユマニチュードとは、人間を尊重する哲学人間の知覚・感情・言語のメカニズムに基づいたケア技法。ユマニチュードとは「人間らしくある」ということ。高齢化に伴い、認知症ケアが世界レベルで大きな課題になっている中で注目を浴びている技術。

 

高齢者が入院すると、痛みで動き回らないように拘束されたり、動きを抑制させられることがある。実際に私も目にしたことがある。入院したら認知症が進んだという言葉を聞くが、無理もない。暴れるからと縛られてベッドに寝かされている。もし、自分がそうされたら気が変になるのではないか。ユマニチュードの考え方は抑制するのではなくその逆。

「動かせること。」

そうするためにはどうすればいいのかということに着目した技術。

 

ユマニチュードの技法を考案したイヴ・ジネストさんは元々体育学の教師だった。体を動かすことの重要性を分かっていたからこそユマニチュードを技法化できたのだと思う。

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写真がイヴ・ジネストさん。写真はこちらからお借りしました。

 

ジネストさんご本人のお話を直接聞くことができたが、ユマニチュードを日本で普及させるにあたって難しいかもしれないと思ったことに、フランスとは違う日本のコミュニケーション方法を挙げていた。

 

フランスではビズと言って、友達や同僚と頬っぺたにキスする習慣がある。普通に生活していれば1日に何度かはビズをする。パーティーなんかに行くと何人もとビズをすることになる。でも、日本ではビズの習慣はない。ビズをしたらおかしな顔をされるか、男女間なら「この人は自分に気があるのではないか」と誤解されるかもしれない。

 

アイコンタクトについてもそう。日本では目を見て話すのは失礼だと思っている人もいる。私がフランスに行って思ったのは、フランス人のアイコンタクトの長さ。目を見つめている時間が長い。恋人同士ではなくても相当長く目を見ている。仲良くなった友人で話すのではなく目をじーっと見てくる人がいた。「瞳と瞳を合わせることで幸せホルモンオキシトシンが出てくる」ことは科学的にエビデンスがあるようだけど、アイコンタクトで相手との信頼関係を築いているように思った。でも、日本ではアイコンタクトが欧米ほど一般的ではない。日本に帰ってきて、久しぶりにフランス人の友人に会った時「君は僕の目を見ない。冷たくなったな!」と悲しそうに言われた。どうやら昔ほど人の目をじーっと見なくなっていたようだ。日本に帰ってきて、自然とアイコンタクトの時間が短くなっていたらしい。

 

フランスのコミュニケーション方式からもヒントを得ているユマニチュードだが、3年も話したことがなく寝たきりだった人が言葉を発するようになったり、画期的だ。

「病人」として扱うのではなく、「人間」として尊重して接するという基本的なことがいかに大切なことなのかということが根幹。これはご高齢の方だけではなく、全ての人に共通している。パソコン画面だけを見て診察を終える医師と患者の目を見て話す医師がいたら、後者の方がいい。私たちは病気であっても1人の人間だから。

 

会場を離れる前にジネストさんと握手をした。愛情溢れる目をしていた。たくさんのお年寄りの心を開かせてきただけのことはある。彼の目を見て、ユマニチュードは高齢化社会に必要なものだと思った。

 

日本でもユマニチュードを広めようという動きが大きくなっている。自分が将来介護を受けることになるのなら、ユマニチュード方式がいい。拘束服に縛り付けられ、押さえつけられながら歯磨きをしてもらいたい人はいないと思う。でも、介護施設や病院でのご高齢の方の扱いは残念ながら言葉には出したくない種類のもの。超高齢化社会に突入している日本。ケア技術も変化して、幸せな人が増える事を切に願う。