渡仏して最初の異文化洗礼はイスラムだった

アラビア語を勉強したいと書いたが、アラビア語といえばイスラムである。

私は在仏7年間の初めの2〜3年間はフランスでイスラム文化と接する事が多かったし、大学寮にいたこともあってイスラム教の人達のする事を直に見ることができる環境にいた。

イスラム教は日本ではあまり馴染みがなく、テロのイメージや伝え聞くニュースの影響であまり良い印象は持たれていないかもしれない。日本にいるとイスラム教徒の人と会う機会もあまりないし、遠い存在なのは無理もない。

だが、私が2002年の夏に渡仏して、一番最初に異文化として強くインプットされたのは「イスラム」だった。

秋から本格的に大学付属のフランス語講座に入る前に、私立の学校で夏の講習を受けようと思ってローワールの古城も近いトゥール（Tours）という街で夏を過ごした。

トゥーレーヌ語学学院 Institut de Touraine という語学学校で 、私が渡仏した当事はまだホームページなんてなかったが、今見てみたら立派なホームページが出来ていた。11か国語に対応しているらしい。トゥール周辺ではフランスで最も美しいフランス語を話すとも言われており、（今ではそれは都市伝説となっているが）そんな事も頭をかすめ、なんとなくトゥールを選んだ。

行ってみると、秋からの受入れ大学・大学院が決まっている本格留学前の人達や、周辺のヨーロッパから夏休みを利用して夏期講座を受けに来ている人達、日本人アジア人も含め世界各国の人達がうようよしていた。HPが11ヶ国語対応だったが、私のクラスにもそのぐらいの国の人達がいた。

私のクラスメートの中にイスラム勢ではイラン人とパキスタン人がいた。パキスタン人のクラスメートはパキスタン政府留学生集団の中の一人で、20人ぐらいの政府留学生が色んなレベルに散らばっていた。色々と学内交流があって、私はそのパキスタン人の留学生達ととても仲良くなった。

というのも、彼らは非常に良い人達で、日本人に対してもとても好意的だった。日本人だから好意的という訳ではなく、イスラム教徒と付き合っていると素朴で人柄の良い人が多い。でも彼らからは「良い人ばかりとは限らないから気をつけるように」と言われていた。

ちなみに、同じクラスのイラン人もイラン料理（非常に美味！）を御馳走してくれたり、とても親しみやすかった。私だけではなく、トゥールにいた日本人は誰かしらとても感じの良いイスラム教徒の人達と友達になっていた人が多かったと思う。イスラム教徒の人達は非常におもてなし好きで友好的な人が多い。

トゥールではホームステイをしたが、受け入れ先のフランス人マダムが実はイスラム教徒で（国籍はフランス、スイス、トルコの三国籍。二度結婚していて、最後の旦那さんがトルコ人だった）、そこのお嬢さん（スイス国籍）の彼のイラク人も一緒に住んでいた。日本人の私の他に、アメリカ人とスペイン人がステイしていた。全員女性だ。

渡仏したのは2002年だったので丁度前年にニューヨークの同時多発テロがあった。

ある時、急に食事中に受け入れ先のマダムが怒鳴り始め、アメリカ人が泣き始めた。当時の私のフランス語学力では詳細は聞き取れていないが、イスラム教のマダムがアメリカ人を責めていたようだった。フランス人のマダムの方がよほど気性が激しい（笑）。

学校でもイスラム教徒が多く、まだフランスに来たばかりの彼らは、食品がハラルであるかどうかにも注意を払っていたり、授業の後モスクへ行ったりしていた。その後も長い付き合いをしていくと、だんだんとフランスに同化していく様子が分かり、変化の過程も面白かった。最初の頃は自分達で作ったものしか食べなかったし、クラスの持ち寄りパーティーでも肉はハラルじゃないかもしれないと言って食べない。でも、数年後にはフランス企業に勤め、普通にハラルの肉ではないものも食べるようになっていたので、彼らも同化せざるを得ないようだ。ただし、一口にイスラム教徒と言っても国によって厳格度合い、お国柄が違う。

そんな訳で、学校でのパキスタン人の友達とホームステイ先の環境のせいもあり、フランスに行って、最初に異国文化を目の当たりにしたのはイスラムだった。夏期講習やその後の大学付属の語学学校でもイスラム教徒がいて、驚いた事も多い。

これからアラビア語を学ぶかもしれないので少し書き留めておこうと思う。

トゥールの写真などは実家にあるので、先日行った東京国立博物館のアラビアの道で撮った展示品の写真を一枚。

 

キスワ　Kiswah （アラビア語で、كسوة）

メッカのカヴァ神殿を覆う黒い布